Polyphony 1945ポリフォニー 1945

  • 2017
  • 名久田教場・中之条ビエンナーレ / 群馬

この作品は、1945年に東京の女学校を卒業した7人の女性によって書かれた、ある1人の同窓生宛ての「手紙」のテキストを原作とし、制作したサウンドインスタレーションです。 1945年3月から翌年に渡って書かれたテキストは現代の若い女性の「声」に変換され、それらの声はそれぞれ7つの「声部」となって、マルチチャンネルスピーカーを媒体にポリフォニック(多声的)に重なり合い、共時的に奏でられます。

ポリフォニックとは音楽用語のポリフォニー(多声音楽)からきており、ポリフォニーは複数の独立した声部(パート、メロディー)が重なり、協和し合いながら進行する音楽のことです。 また、文学においては作者の人格から自立した複数の登場人物たちがそれぞれに発話し、ひとつの体系的な物語を形づくる構造、その概念を指します。

この作品ではそのポリフォニーの様式を踏まえ、手紙のテキストを朗読する声部を個々の旋律として捉え、 手紙の書かれた日付に基づいて並べられた複数のタイムラインは、同時的かつ時系列に再生されます。また、それぞれのスピーカーからは特定の一人の「声」が聞こえて来ます。

1945年の3月から、8月の敗戦、そして戦後の時を迎えて、当時の彼女たちによって書かれた言葉はまるで対話するかように所々で符合し、すれ違います。 その時代、彼女たちが共有していた意識の大きな流れと、決して互いに共有できない個々の旋律は、 幾つものエピソードやモノローグを代理で語る現代の女性の声によって、現在という空間の中に放たれます。

上演中、時折聞こえるピアノ曲はバッハの「平均律 BWV858」。いくつかの演奏は声部ごとに分けて録音されており、個別のスピーカーから流れ出した音は、会場でひとつの曲になります。日本放送協会に保管されているラジオの洋楽放送記録を調べると戦時中もクラシック番組は継続して放送され、ピアノの独奏曲も放送されていました。女性たちの手紙にもクラシック番組についての記述を幾つもみかけることができます。

  • ⑴.《Polyphony 1945》
  • 2017
  • 7チャンネルサウンドインスタレーション、ミクストメディア
  • 39分
  • 出演:清泉ほだか 陣内薫 武田萌花 田中志朋 濱田初穂 宮代琴弓 侑子
  • 演奏:中江彩芽
  • 録音:小林清乃
  • 記録撮影:大島綾 金子裕亮 佐野真弓
  • 音響技術協力:横溝千夏
  • 特別協力:手紙の書き手の方々・ご家族、都内女子校校友会
  • 素材: スピーカー、音響機材、机、椅子、ミクストメディア( アメリカ製 1945年グリーティングカレンダー/ドイツ製万年筆と便箋/忘れな草の押し花と筆者のポートレート 1945年撮影 )
  • サイズ:可変

  • ⑵.《 "Polyphony 1945" スコア-初稿- 》
  • 2017
  • 素材:楽譜、インク
  • サイズ:可変

サウンドインスタレーション作品制作にあたり構成したスコア。
7つの五線譜上に7人の女性たちが綴った手紙の日付と文面における心情の変遷をスケッチしている。